義弟が出してきた書類は、婚姻届であった。
ぱんぱかぱーん!
「明日、区役所に出しに行く」
ってんで、新郎?の保証人欄にサインをしてほしいらしい。
「荷物を届ける」は口実で、真の用事はこっちでござったか。
ひゅーひゅー!
(芸風ちょっとおかしいな。。。)
*
断る筋合いはないので、サインして。
せっかくなので山奥から実印を引っ張り出してきて捺す。
「いやあ明日、こいつの誕生日だからさあ」
訊いてもねえのに、デレデレな義弟は理由を話しはじめる。
ハイハイハイ、いまのアンタは無敵、無敵。
*
「そんでね」
義弟がちょっと神妙に仕切り直す。
どうやら、婿養子になるらしい。
にょうぼうは結婚してキクチになっちゃったし。
義伯父は独身貴族の後期高齢者なので。
義弟が婿養子に入るってことはすなわち、
にょうぼうの旧姓が断絶するということである。
義妹?新妻?の実家は2人姉妹で
おねいさんが既にお嫁に行ってんだけど。
カノジョの段になって、急に苗字を残したくなったらしい。
まあ、地主らしいし。
*
義弟はちょっと申し訳なさそうにしてるが。
にょうぼうとおれは。
「義弟がそれでよけりゃいいんじゃん?」
って即レスした。
エア夫婦とはおもえない、この呼吸のぴったりぐあいw
いやいやいや。
これはこないだ正月ににょうぼうの実家に行ったとき。
あくまでも可能性としてってことではあれど訊いてたので。
「あ、やっぱりそうすか」てなもんで。
にょうぼうの実家は別に名家でもないし
そもそもそういうこだわりはないし。
義父母が生きてたとしたら少しは波風立ったかもしれないけど、とっくに天国いっちゃってるし。
てんで、瞬時で解決。
デメタシ、デメタシ!
(にょうぼう自身は旧姓を)
(ちょっと変わった苗字ということもあってか)
(ものすごく気に入ってはいる)
(んだが、それとこれとは話は別で)
(にょうぼうがいいってんならノー問題デアル)
*
その環境。
ベクトルのこっちに向けてちょっと考えると。
キクチとておんなじだ。
妹は嫁に行っており。
キクチにはムスメっこ1人。
将来。
ムスメっこが嫁に行けばキクチは断絶するし。
ムスメっこがもし独身のままでも、
いずれにしろキクチは断絶待ったなしなわけで。
*
それはいま判明したことじゃないケド。
うすうすおもってたことではあるケド。
キクチ家もまったくの名家ではないからどうでもいいんだケド。
なんつうか、ちょっと考える。
というか想いを馳せる。
こむずかしいことやややこしいことじゃなく
妄想100なやつな。
*
というのは。
キクチがいま存在してるってことは。
(これは脳みそ不足だてらの盲点/世紀の大発見なんだが)
(あ、「キクチ」ってのは苗字じゃなくおれのことね)
人類が地球上に出現したのは何百万年前だか知らねえケド。
それからキクチの先祖が1度たりとも絶えず子孫をつくり出してこなかったら、ヒロシは存在してないわけで。
いきなり「新しい人類・キクチ爆誕!」なんてことはないわけだから。
そう考えると。
じぶんがいまコウ存在してるってすげえなとおもうし。
じぶんの代? ムスメっこの代?
で、その、支流の支流のそのまた支流かもしんないが、連綿が1ケ断絶するってのは。
すんごくおっきいスケールで考えると、わりと一大事だよね。
なにしろ何百万年織りなしてきた伝統芸能だもの。
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だからどうだってんじゃないが。
そうでしたとさってだけの話。
*
。。。
*
でもでも。
たとえばムスメっこが嫁に行ったとして。
男の子が2人できたとして。
向こうが理解がいい人なら。
「どっちか1人にキクチを名乗らせる」
っていうザオリク・オブ・キクチなルネッサンス手段もありうるんだな。
ま、あくまで机上の空論としてだ。