そもそもキクチがイッヌを飼いたいって懇願したヨシダなのに。
キクチはろくすっぽ、ヨシダの面倒は見なかった。
学生のときは、夜な夜なウタゲで忙しかったし。
就職してからも、夜な夜なウタゲで忙しかったし。
ばーかばーか、ばーか!
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イッヌの知識がビタ一文皆無なキクチは。
なんとかヨシダの歓心を得ようとして。
バイト帰りとか仕事帰りに、クランキーキッズっていうチョコレートをあげつづけた。
だって、ヨシダすげえ喜んでくれるし。
「きょう唯一の食糧です!」って勢いで、がっついてくれるし。
→イッヌにはチョコレートはあげちゃダメなんです。
→虫歯的にはおろか、体質的にも。
→で、その魅惑の美味しさを覚えちゃうとドッグフード食わなくなるし。
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結論的には、クランキーキッズのダメージは受けず。
ヨシダは元気に大きくなってった。
後日、「ヒロシが夜な夜なチョコをあげてたらしい」ってことが明るみに出て。
ただヒロシが「おめえヨシダを殺す気か!」って親から死ぬほど怒られただけで済んだ。
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キクチも妹も、都合のいいときだけかわいいとか言ってて無責任だったのと。
父親がもともと超絶イッヌずきだったのがうまく回転して。
ヨシダは父とマブになってった。
おうちのすぐ裏が桝形山っていうほどよい丘陵で。
父親は隙あらばヨシダを連れ出して。
生田緑地とか日本民家園をおさんぽしてた。
(土地勘がない人にはさっぱしわかんねえローカルっぷりなラインアップな)
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キクチは、飼いはじめるときはあんだけ懇願したのに。
さんぽすら面倒くさがるありさまで。
「たまにはおめえも行けよ」親に言われていやいや連れ立ったときは。
おさんぽタイムを縮めたくて「試練じゃ!」って、道中ずっとダッシュしたり。
山のすぐ上から駆け降りてくる専修大学の駅伝部の朝練とすれちがったり。
ちょうどお付き合いしはじめたころの後のにょうぼうは、キホン動物だいすきで。
「よっちゃんのおさんぽに行きたいな。行こうよ」って言われて。
しぶしぶな感じを見せずに「行くか!」言いつつ。
どうやってヨシダの隙をついてカノジョとチューするチャンスをゲッツるか。
みたいなことしか考えてない、最悪人間で。
スーパーサイアク人でしかなかった。
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でも、これもキクチの自分勝手なつごうだけど。
バイトで大変な目に遭ったり。
逆に、バイトでうれしいことがあったり。
就職が決まってないのに大学を卒業しておめえどうすんだよってなったり。
それを親に詰められたり。
就職につながるバイトがやっとやっと決まったり。
社会人になって、洗礼をいただいたり。
逆に、がんばった成果をちゃんと褒めてもらえたり。
したら、それは逐一、門を入ってすぐ横にあったよっちゃん(ヨシダ)の小屋にチョコを携えて行って報告するような感じで。
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そのころもノートに日記はつけてて。
いろんな想いは書き留めるようにしてたんだけど。
その原型っての?
文字化?言語化?するその最初の一番の報告は、ヨシダにするようになってて。
そういうシステム?導線?が出来上がってて。
たぶんその間の、キクチが考えてたことの髄の髄は。
親でも妹でもカノジョでも日記帳でもなく。
ヨシダがいちばん知ってるんだとおもう。
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ヨシダは基本的にバカイヌなんだが。
こっちがガチで接すると気持ちが通じるところがあるという。
客観的な事実より主観的な想いをものすごく汲み上げられるスキルを持ったイッヌでもあって。
ヨシダがキクチ家に関係するようになってから、7年後ぐらいかなあ?
ヒロシの結婚が決まった。
つづく。