キクチヒロシ ブログ

絶滅寸前の「辺境クソブログ」。妄想やあまのじゃく。じゃっかんのマラソン。

小説『陸王』の感想文

ぼくらは小説にカタルシスを求めてて。
適切な量を適切なタイミングで得られると
とっても気持ちがよくなる。

『陸王』はそういう意味で
とっても気持ちいい。
(以下、ネタバレ注意)



陸王

経営難がつづく
創業100年の足袋メーカー「こはぜ屋」。
斜陽産業のテコ入れとして
足袋メーカーならではのランニングシューズ
「陸王」の開発に乗り出す。

しかし、
ランシュー開発に関して
ノウハウも資金もないところで。
素人が見よう見まねで試行錯誤するだけ。

銀行の融資も受けられない。
大手メーカーやコーチ・選手からは
見向きされないどころか、冷笑されるばかり。

地下足袋に使うような生ゴムでは
ソールとして反発力も耐久性も足りないし。



話をすっとばして。
いきなり結論をいうと。

最高のランニングシューズができあがる。

「シルクレイ」というソール素材を手に入れ。
村野というカリスマシューフィッターを迎え。
最適なアッパー素材ベンチャーと独占契約する。

大手メーカーと契約していた選手たちが
こぞって使用しだす。

あわててこはぜ屋を訪れた
融資してもらえなかった銀行の担当者の
ほぞを噛ませる。

八方ふさがり要素を
すべて解決するハッピーエンド。
カタルシス、パねえ。



大逆転の要素はすべて
ひとの心に訴えかけることによって成り立つ。

こはぜ屋の将来を思い、
新規事業を提案した銀行員・坂本。

こはぜ屋の社長・宮沢の熱意を感じ
賛同した従業員たち。

こはぜ屋の技術屋感に感化されて
シルクレイの製造装置を提供した開発者飯山。

サイズやタイムといったただの数字だけでなく
選手ひとりひとりと親身に接し
その特徴やクセ、性格や目標までも
把握しているシューフィッター村野。

村野と村野が手がけるシューズを信頼し、
ついていく選手たち。



ちょっと待てよ。
ご都合主義すぎやしませんかね?

いかに、宮沢社長の吸引力がすごくても
そこまでいいぐあいに、転がりますかね?



たとえば。
宮沢のシューズ作りの夢語りだけで
カリスマシューフィッターが来ますかね?

そもそも。
融資の条件が経費節減のためのリストラ
なんて条件をつきつけられてる状態の会社。
シルクレイの製造装置を稼働させてたら
電気代なんかすげえんじゃね?

っていうか、村野の給料はらえんの?
とか。



いいんである。



ぼくらが『陸王』に求めてるのは
そういうディテールというより
圧倒的なカタルシスだから。

ノンフィクションで夢を語ってるとこに
「そんなわけねえだろ」は、いらない。

いや、あまりにも荒唐無稽だったら
さすがに「ねえだろ」かもしんないケド
「ま、そこはいっか」
って、先に進めたくなることのほうが
重要であって。

『陸王』は、そういう
先に進めたくなるたぐいのものだとおもう。



。。。



前半で、ハードルがいくつも設定され。
後半で、それらをクリアしてゆく。

それだけでも、
カタルシスを得られるんだろうが。

「陸王」ができあがり。
ハードルをクリアしはじめたところで。
そこからもう一転がし、転がる。

大手メーカーが資金力にモノを言わせ
アッパー素材メーカーをかっさらう。。。

1機しかないシルクレイ製造装置が
修理不可能な故障をしてしまう。。。
装置を作り直すのに、1億円かかる。。。

えっ?
「陸王」プロジェクト中止?


どうやってハッピーエンドになるかは
読んでのお楽しみ。
(あるいは、ドラマを観てのお楽しみ?)



おまけ。

読みながらドッグイヤーした箇所を
無造作に引用しとく。
なので、脈略もなにもない。

ただのおれのこのみだ。

もっというと。
ブログで感想文を書くときに
表題にもってくるキャッチーな言葉が
ないかなあって下心の残りかす、
みたいなもんだ。

「進むべき道を決めたら、あとは最大限の努力をして可能性を信じるしかない。でもね、実はそれが一番苦しいんですよ。保証のないものを信じるってことが」
「勝手にゴールを作るなよ、大地(注:宮沢の息子な)
村野はいった。「水を差すわけではありませんが、必ずしも品質の高いものなら売れるというわけではないですからね。品質が高いものならいくらでもあります。でも、品質が低くて売れるものはない。それが現実だと思ったほうがいい」
宮沢はいった。「ランニングシューズの違いは、突き詰めれば価格や機能ではなく、思想性の違いじゃないかってことだ」