中学のときにいた、3年生のパイセンの話。
けさ、通勤でおうちから駅まで歩いてるとき、「ビューティーサロン沙由子」の手前あたりでおもむろにキョライしただけで。
時節がら、「けさ」「沙由子」じゃなく「東京マラソンのウタゲの帰り道で」ってウソついちゃえば、何らかおもわせぶれるのかもしんないけど、まあいいや。
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そのパイセンは腰が悪いらしくて、10周のペース走ならだいたい7周目か8周目で、インターバル10本ならだいたい7本目か8本目で、いつも腰を押さえて後退しだす。
で、みんなにだいぶ遅れて、ペース走なりインターバルなりをコンプリートする。
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1年生のおれは練習についていくのが精一杯で。
あまつさえ昭和末期の運動部なんて、そもそも1年が3年生に話しかけることすらできないから、すげえ失礼だけど、漠然と「いつも途中で腰を押さえて後退するパイセン」ぐらいの認識しかなかった。
なので、上記のとおり「腰が悪いらしい」以上のことはわからないわけで。
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パイセンはそんな感じなので、まあ、試合があっても選手としては出れなくて。
いわゆる、万年補欠的なポジショニングでいらして。
長距離のひとは駅伝があるから、上級生になっても一度も公式戦に出られないってひとはまれで。
でいて、そのパイセンは結果的に、一度も公式戦に出られなかったとおもう。
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で、これはうちの学校だけのルールか、当時の地元の中学校の共通認識かは、よくわかんないけど。
秋に市民大会ってのがあって。
市民大会は公式戦じゃない、市が主催する陸上記録会ってニュアンスで、高校生や大学生、レベルの高い市民ランナーも出場する大会。
なのでだいたい、下級生で種目(跳躍とか投擲とかのフィールド系、な)で翌年有望なひとの試合経験の場だったり、試合に一度も出られなかった3年生の最初で最後の晴れ舞台っていうか、事実上の引退試合の場だったりして。
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パイセンは、市民大会の800mに出場することになって。
500mぐらいで腰に手を当てはじめ、
600mぐらいで顧問が「もういいぞ」ってストップさせた。
DNF、な。
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昭和末期の運動部なんて根性論の塊だから、(さすがにおれのころはもう、水飲んじゃいけないとかはなかったし、夏は白いキャップを必ずかぶるように言われてたものの)
練習でぶっ倒れても基本、起き上がらせられるし、「脚が痛いので病院いったらドクターストップかかりました」って言っても「走れば治る!」って世界じゃないすか。
それだけに、顧問が「もういいぞ」ってストップさせるのなんて超レアケースで、少なくともおれは3年間で2回しか見たことない。
ちなみにあと1回の「もういいぞ」はキクチ、ってのは措くw
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あ、ちょっと話が脇道にそれると。
だいぶ前に官九郎さんと飲んだとき、中学陸上の話になって、でもどこか話がかみ合わねえなあって瞬間があったんだけど。
「近くの中学に超速い人がいて、3年連続全中にいったのに、藤沢商業(神奈川の強豪高校)で駅伝のメンバー入りすらできなかったとか、高校の全国レベルってどんだけだよ」とか話したときかな()
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それは、じぶんの時代には下級生でも100mと1500mは学年ごとにカテゴリーがあって。「1年100m」とか「2年1500m」とか。
でも、10コ下?の官九郎さんの時代にはなくなってて。ぜんぶ「共通1500m」ってなってて。
そうすっと、官九郎さんからすると「3年連続全中って、どんな逸材だよとか、高校でどんだけ伸び悩んだよ」なんだろうが、そんなんからくりで。
ってことを、こないだ、ひょんなことから知った。
じぶんの時代は、1500mの全国標準記録が1年で4分33、2年で4分18だったかな()
まあ、どうっでもいいや。キクチには縁のない話だし。
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。。。
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で、けさ「沙由子」の前でそんな30年前のことがキョライして。
なんつうか、言い方が決定的におかしいかもだが、そのパイセンは「何をモチベーションに」「何が楽しくて」陸上部で長距離なんかやってたんだろう。
おもった。
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だって、何が原因か知らないけど、そもそも腰が痛いんだぜ。
なもんだから。
練習でもかならず途中で痛くなって遅れちゃうんだぜ。
正選手として公式戦に出れる見込みは、ほぼないんだぜ。
でも、知るかぎり、練習を休んだことないんだぜ。
かならず遅れるけど、メニュウをコンプリートしてたんだぜ。
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で、いや。
それは確かにすごいとおもうけど、たとえば「運動部」だとしても、その状態で長距離である必然性も、陸上部である必然性もない。
あ、「必然性がない」ってのは違うな。「選択肢がほかにも、ものすげえいっぱいある」
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そういうなかで。
それでも3年間休まずつづけたパイセンの原動力って、いったいなんなんだろう?
「超ウルトラスーパー陸上ずき」とか?
にしたって、まったくワケワカメだし。
ワケワカメだからこそ、ものすげえ興味があるし、そこには陸上競技と向き合うひとにとって、とても大切なものが含まれているような気がする。
ダウンを食らって、そのまま寝てりゃいいのに、じぶんでも何で立ち上がるのかわからないのに、なおかつ立ち上がる矢吹丈。的な、なにか。
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。。。
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ちなみにパイセンの市民大会800m。
600mでリタイアしてしまったけど、500mまではその組のトップを爆走してたの。
トップを突っ走るパイセンの姿に昂っちゃって、「さすが○中魂だぜ!」って、それこそワケワカメにモーレツな感動をして。
涙を流しながら「コバヤシいいぞー!」「コバヤシいけー!」って、ふだんは面と向かって話しかけられもしないのに、夢中すぎて、どさくさまぎれの呼び捨て大絶叫。
「○中魂」なんて言葉すら、ありもしなかったのになw
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45になりなんとするきょうび。古今東西の陸上選手、おれが見たひとのなかで、あの秋の市民大会で激走したパイセンは、いまだに5本の指に入るぐらい、カッコいいとおもう。
おもいましたとさっ。
ぽえむ。