30歳になりなんとするある日、齢上の友人が言った。
30代。フタを開けたら。
そうおもろくなかった。
出会う数の何倍も、別れを経験し、
追われて必死で逃げる、だけの日々を、過ごした。
暗い部屋のかたすみで。
*
「30代よか40代のほうが100倍おもろいんだから」
ん? デジャブか? な、いきおいで。
40歳になりなんとするある日。
おんなじ酒場で、おんなじ友人が、言った。
「うっそでー」
「だって、30代はちっともおもろくなかったぜ」
「つらい悲しいことしか、起きなかったぜ」
という言葉はのみこんで。
*
そしておれは40歳に、なった。
おれなんかが、40歳に、なった。
ジョンレノンなら逝ってしまう、
宮沢賢治ならとっくに逝ってる、40歳に、なった。
*
40歳。
数えで41だから、前厄、にあたる。
どんなのが降りかかってくるか、逆に楽しみだわ。
ぐらいの諦観で、40歳のバースデーを迎えた。
ところが。
待てど暮せど、おれの40歳に降りかかってくる厄など、なかった。
*
どころか。
人生でぶっちぎりに楽しい、1年間を過ごさしてもらった。
30代の10年間で楽しかったこと。
を、ギュッと10倍濃縮するぐらい、楽しいことしか起きない1年間を過ごさしてもらった。
もっというと。
それまでのくそつまんない40年間をギュッと濃縮するぐらい
楽しいことしか起きない1年間を、過ごさしてもらった。
ミラクルってぐらい。
このおれさまちゃんが、いいのか。
ぐらい、楽しいことしか起きなかった。
*
それまでの40年間。
まっくらな部屋のかたすみでずっと独りよがってた。
のは、マボロシだったんじゃねえか。
ぐらい、利害関係のないところで、多くの人と出逢えた。
まっくらな部屋のかたすみで、だケド。
*
こんな物言い、いい子ちゃんぽくてムシズがランするが
「40歳で出逢ったすべてのひとに、ありがとうございます」
っていう感じだった。
40歳になるまでに出逢ったひととも
40歳になってから出逢ったひととも
それはそれは楽すい1年を過ごさせてもらった。
前厄。
なんて、まったくのマボロシなんじゃないかって1年だった。
おもうぞんぶん、はたらき
おもうぞんぶん、走り
おもうぞんぶん、お酒を飲み
おもうぞんぶん、騒ぎ
おもうぞんぶん、記憶を失くす
そんな1年だった。
*
「40代は、1年1年、ぐんぐんおもろくなってくんだもん」
40歳を迎える前の、春のとある日。
友人は、言った。
*
「じゃああれか? これからの1年間は、このミラクルな1年間を凌駕するぐらい、楽すいことしか起きねえってことか?」
*
ムスメが小5になる。
おれが小5のころ。
おいさんを見上げて、こいつ人生終わってるな。ぐらいのことをおもってた。
成熟しきってるな、とおもってた。
でも、ザンネンながら。
おれの人生、まだ終わってない。らしい。
小5のころから、大して成熟度、増してない、らしい。
*
あす、4月24日。
41歳に、なる。
41歳に、おれは、なるっ。
逃げも隠れもしない本厄こんにゃくに、なってるっ。
んだが。
40歳のときよか、さらに。
芋づる式?
雪だるま式?
山びこ打線式、加速度的に、
楽すい1年になりそうだ。
おもうぞんぶん。
また1年間、チョー楽しみ。
わたしはきょうまで生きてみました。
ときには誰かのチカラを借りて。
ときには誰かにしがみついて。
ときには誰かをあざ笑って。
ときには誰かにおびやかされて。
ときには誰かに裏切られて。
ときには誰かと手を取り合って。
わたしはきょうまで生きてみました。
そしていま、おれさまちゃんは、おもっています。
あしたからも、こうして、生きていくだろうと。
ありがとうございます。なんてな。
長さんなていで。
あしたからもコウして、生きてゆくっ。