知り合いにチャリンコ乗りがいる。
「友人」と言いたいところだが
9つぐらい齢上だし、遊び仲間ではなく
仕事のパートナーというか大先輩なので、ちょっと恐れ多い。
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カレはひと言でいうと、バカだ。
ひと言でいうと、というより
「バカ」ですべて言い尽くせる、バカ。
それもただのバカではなく、突き抜けた愛すべきバカ。
ほえあいず大先輩なので恐れ多い?
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カレが本格的にチャリにハマったのは5、6年前。
チャリンコ屋のサイクリングサークルに入ってから、エスカレートしてったようにおもう。
カラダはみるみるマッチョになってった。
ふだんはまったく酒を飲まなくなったという。
ウチの事務所で打合せるとき、
インターホンに映る姿は
チャリンコ便のひとにしか見えない。
外で走るのとは別にまいんち
家のなかで30km、本を読みながら漕ぐのが
日課だという。
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カレがバカのバカたるゆえんは、3つある。
1つは
「リミッターをかんたんにはずせちゃう」
ところ。
たとえば、ずいぶん前には
速く走りたいあまり公道でカーブを攻め、
トラックとガードレールに挟まれて、肩を粉砕骨折しちゃった。
で、まだカラダに鉄板が入ってるのに
せっかく当たったからって東京マラソンに出ちゃう。
トラックに当たったり、東京マラソンに当たったり、ずいぶん忙しいひとだ。
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ちなみに鉄板はいまもまだ入ってて
後ろから見ると肩のラインが明らかに、おかしい。
さいきんはそういうたぐいのムチャはしなくなった。
とはいえ、根っこは何も変わってない。
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サイクリングサークルってのが
そうとうガチらしくて。
毎週日曜、山梨のほうの峠で激しく追い込むんだそうだ。
峠までの往復もチャリなので
数時間で200kmだか走るらしい。
チャリンコのことは何もわからないケド
その時点でなんだかだいぶ、おかしい。
「でもまあ、午前中に終わるんで
いちんちが有意義に過ごせますよ」
などと、わけのわからない物言いをくり返してる。
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おれもジョグをはじめてからというもの
家から半径10kmぐらいのウタゲなら
「これなら走って往復できるな」
とかおもうようになっちゃった。
クルマで「目的地まで28km」とかあったら
「ジョグなら2時間そこそこで着くなあ」
とかついつい考えるようになっちゃった。
一般的にはソレとてじゅうぶん、クレージーなんだろうが。
チャリの行動半径というか、思考回路とは
とうてい比較にならない。
200kmったら、ちょっとした月間走行距離じゃんか。
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カレはそのサークルで
ハタチそこそこの
プロを目指そうかみたいなひとと
毎週ガチで競い合ってるらしい。
ハイ。
カレがバカのバカたるゆえん、その2。
「じぶんの年齢を、かんぜんに忘れちゃった」
その3「負けず嫌いすぎる」
との合わせ技なんだが。
50近いおっさんが20代とガチで競って
「今週は負けちゃいましたよお」
などと本気で悔しがってたりする。
「ジャンケンで負けても悔しい」
カレの負けず嫌いは、そんなレベル。
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そんなバカすぎるカレを
おれはたっぷり尊敬してる。
バカが伝染るぞ、ぐらい。
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カレの本職はデザイナーさん。
なんだがもはや
「本職チャリ、副業デザイナー」ぽい。
カレは
「仕事をちゃんとやってこその自転車っす」
と口ぐせのように言う。
確かに。尊敬すべき考えかただ。
やろうとおもっても、なかなかやり切れるもんではない。
繁忙期なんか、
日曜200kmぐらい峠を走ってから
午後、仕事をしてくれたりもする。
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ただ、本命レースの前になると
仕事のことなんか眼中ない。
カレはモチロン、そんなこと言わない。
でも、見てりゃそんなの、誰の目にも明らかだ。
何が言いたいかというと、そんくらいストイック。
今年の本命レースなんか。
減量にはまるあまり
当日まで減量続けちゃって
けっか、レースで失速。
ぐらい、ストイック。
そんなの、おれでも失速するってわかる。
とか言っちゃ、いけない。
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カレには、わりとよく仕事をお願いしており
入稿データ(納品物のことね)を
打合せと称して、阿佐ヶ谷のコーヒー屋で受け取る。
この仕事。
入稿ってのは、うれしいイベントだ。
仕事がひと段落つく。
が、おれはその打合せを
「仕事がひと段落つくぜ、Yeah!」
ではない意味で、いつもものすごく楽しみにしてる。
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お互いこうやって、カラダを動かすことを趣味としてるので
「打合せ」ではしぜん、その話になる。
仕事との兼ね合いかたや取り組む姿勢
トレーニング方法
レースに向けた意気込みなんかを
まいどまいど熱く語る。
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阿佐ヶ谷のコーヒー屋には、
いつもだいたい11時に集合する。
59分ぐらい喋って、
「あ、もう昼ですね。じゃあそろそろ」
って入稿データを受け取り、
「あ、どうも」って解散となる。
打合せ1時間。
うち雑談59分、仕事1分。。。
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サイクリングとかトライアスロンやってるひとのなかでは。
カレみたいのはアタリマエなのか
やっぱりおかしいのかは、知らん。
どっちかは知らんがやはり
おれはカレのことをたっぷり尊敬してる。