キクチヒロシ ブログ

絶滅寸前の辺境クソブログ。妄想やあまのじゃく。じゃっかんのマラソン。

行きつけのお店

父は1人でスナックやパブに飲みにいくのが好きなひとだった。

お店のマスターや常連さんとなかよくなり
教員をしてたので「センセイ」と呼ばれ
調子に乗ってカラオケを歌いまくり
「センセの越路吹雪と美空ひばりは違うねっ」
などというミエミエのヨイショに気をよくしては
お店にゴンゴンお金を落としていた。




何度か引越すたび、
新しい街で父がまずしたのが
行きつけのお店さがし。

マスターや常連さんとなかよくなり
やはり「センセイ」と呼ばれ
カラオケを歌いまくり
「センセの越路吹雪と美空ひばりは違うねっ」
とミエミエのヨイショに気をよくして
ゴンゴンお金を落とす。

おれもそういうオトナになるんだろうな
とおもった。
お店のひとと知り合いなんてカッコイイな
とおもった。

トモダチナラアタリマエ~。
とアルシンドになっちゃうよ、なていで。



店に入ると
「あ、センセ。いらっしゃ~い」
と、どんなに混んでようと席を空けてもらえる。

ビールを1杯飲むと、焼酎とお湯と
梅入りのグラスが勝手に出てくる。

ボトルキープ。オトナのたしなみ。

ころあいになるとカラオケに勝手に
「お祭りマンボ」が入れられ
やにわに立ち上がる。

「コレ、つくってみたから味見してみてくれる?」
と、メニューにない干物のあぶったのが出てくる。

夜が更け、
店内がお店のひととおれらだけになり
勝手に入れられた「ヨイトマケの唄」を
歌う父の前で、涙を流しはじめるママ。

ヨイトマケを歌い終わると
「コレ、もってって」と漬物をおれに渡し
クルマで家まで送ってくれるチーママ。

カッコいいな。
おれもオトナになったらこういうふうになりたいな。
とオトナになってたケド、おもった。



父親に似てお酒が大好きなオトナにはなった。
父親に似ず、1人飲みやカラオケはしないオトナになった。

超絶人見知りちゃんなので、
1人で飲みに行って、というか
「未開の地に乗り込んでって、ともに楽しむべき仲間を探す」
という行動じたい、
おれさまちゃんの辞書に載ってない。



あ。
店員さんと客との適切な距離って何だろう
ということを書きたいらしい、おれは。

言っとく。



オトナになって
お酒を飲むようになって
少ないケド、いくつか行きつけの店ができた。

もちろん、そんなわけで
マスターやほかの客とトモダチナラアタリマエ~
にはならない。

いつかトモダチナラアタリマエ~
できるオトナになりたいなと
憧れつづけながら。



「お店のひととあんまりなかよくなるのって
何か、やだよね」

去年の暮れごろだったか、
仕事終わりにボスと飲んでて、いきなり言いだした。

ボスはどちらかというと
お店のひととコミュニケーションをとるほうだ。
なので、意外だった。

「そうなんですよ!」

超絶人見知りを棚に上げて
さも、いつもの自閉的な展開はそもそも
なんかしらの哲学に基づいているかのように
おれは、首肯した。



いちめんでは。

お店のひととなかよくなって
「お店の顔」みたいになり
それなりの融通も利いちゃったりするのって
どこかちょっと、キュークツでもある。

「おれ、ココの顔だから」的な客って
どこかちょっと、うざったくもある。どこかちょっと。

お店のひともなんかそのひとを
えこひいきしてるみたいで、
傍から見ると、そんなに気分のいいものでは
なかったりもする。
別に「こちとら客だぞ」て
ふんぞり返るつもりも
かまってちゃんになりたいわけでもないケド
ランク付けされてるような気がする。
どこかちょっと。

かんぜんに、被害妄想。
かんぜんに、負け犬のシット。
として。



ふつうに店に入り、飲み食いする。
話しかけも、かけられもしない。
オーダーも、ミョーなおべっかは一切なし。

で、しこたま飲んでお会計して出るまぎわ
奥のほうから
「いつもどうも~」
と、マニュアルではない声がかかる。

それ以上はいらないよね。
そういうこの店、サイコーだよね、キクチくん。
ですよね、ボス。と。

おれの行きつけの店はだいたい
こういうふうにして、できあがる。