マンガではまちがいなく今年イチ
野球は嫌いではない。
というか、わりと濃厚に好きなほうなんだが、
野球マンガはそう読んでるほうではないとおもう。
野球どころか、マンガ自体、新しいものはそう読んでいない。
なので今年、新刊を何冊読んだのっていわれると困っちゃうんだが、
そんな少ない中ながら、確実に今年イチ。
主人公は、プロ野球のピッチャー。
先発ローテーションにも入れないし、リリーバーにもなれないけど一軍にはいる、
という程度の実力の、中継ぎピッチャー。
中継ぎとはいっても、今年でいえば中日の浅尾みたいな
セットアッパーというイメージでもない。
中継ぎど真ん中。なんである。
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主人公は26歳。
高卒でプロ入りして8年目。
年俸1800万。
年齢的にもビミョーだし、
年俸も一軍にいる野球選手にしてはビミョー。
プロ野球名鑑を読むのが趣味で、
他チームも含め、選手の年俸はだいたい把握している。
だから、対戦相手の尺度は年俸。
自分より低けりゃ強気に攻められるし、
高けりゃ萎縮して、打たれる。
でも比較にならないぐらい高いと、逆に開き直ってけっこう押さえたりしちゃう。
というキャラ。
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このマンガの魅力をひと言でいうと、
なんだかクロートになった気になれる。ということ。
中継ぎの心情やら、ゲーム運びやら、パッとせず引退した選手のその後やら、
にフォーカスして、
一見はなやかなプロ野球選手のうち、
大多数を占める一流ではない選手たちの等身大が描かれている。
原作者がよほどの年月をかけて、よほどたんねんに取材を重ねてきたか、
あるいはよほどのブレーンがいないと、
こういう作品は絶対に描けない。
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たとえば最新刊である3巻では、
去年引退した中継ぎのセンパイが登場する。
主人公が分析するに、そのセンパイが引退せざるをなかった理由は、
スピードを追求しすぎたから。
3年前は50試合に登板していたそのセンパイ。
それがたった数年でお払い箱になった、という
現実にもゴロゴロいるタイプ。
主人公はそのセンパイを
コントロールやら投球術を磨けばまだ現役でやれたのに、と、
自分にとっての「悪い見本」として据える。
ある日、センパイが主人公のもとにアドバイスにくる。
「右腕をこう使えば、もっと打者を幻惑できる」と。
あ、主人公はサウスポーね。
センパイのアドバイスだからむげにもできず、
主人公はそれを採り入れる。
すると球速が3~4km、いきなりあがる。
それまでピッチングの組み立てでなんとかしのいできた主人公が、
相手バッターを詰まらせる、という快感を得る。
だが、数試合後、スター選手にホームランを打たれる。
「このままだとセンパイみたいにあと数年で終わる」
と悟った主人公は、元のフォームに戻す。
うわ、ネタバレ。
*
要するに、スピードとコントロールというのは、
バランスで成り立っていて、
スピードを重視すれば、コントロールはアバウトになる。
よほどのスピードボールのもちぬしなら、コントロールはアバウトでもいいが、
そうでなければ、
両者の最適なバランス点を探して、そこでやってくのがいちばんだ
というのが、この話の結論であり、原点。
うーむ。
文章だと説明がムズカシイし、わかりづらいな。
おれの説明力不足をおぎなうためには、
じっさいに読んで確かめるのがいちばんよい。
うーむ。
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にもかかわらず、
あと、もう1つ例を出しちゃう。
これはおれがナルホド~とおもったシーン。
わかっていそうで、現場は過酷だぜ、という。
これも3巻。
3回途中で先発が打ち込まれて0-5。
主人公に「ゲームを作る役割」として出番がまわってくる。
ミッションは4イニング。
しかし、4イニング目まで味方の援護なく、
逆に追加点を奪われてしまう。
そうすると、主人公の役割は
「ゲームを作る」から「敗戦処理」へと変わる。
なぜなら
負け試合に、余計なピッチャーをつぎこみたくないから。
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このマンガは正直いって、
絵がへたっぴいだとおもう。
そしておれが『グラゼニ』に引き込まれた
もう1つの理由はそこにある。
要するに、ストーリーの展開とか事情説明にこそ、
キモがあるというわけだ。
だからこそなのか、
野球のプレーを中心に描かれているにもかかわらず、
選手のメカニック(フォームやら)は
完全無視といっていいほど、ズサン。
でもそれでいい。
それだからいいのかもしれない。
とおもわせる魅力があるんだな。
このフシギな感じに最近、
おれは完全にトリコになってるんである。