少し前からこの本について書こうとおもっていたんだが、
折りしもきのう、こんなニュースが流れた。
→検証委 国と東電の考え方調査
*
リンク切れにそなえて、NHKニュースの要所をコピペ。
例によって、いいのかは、知らん。
海外メディアの記者から「処罰につながる調査をすべきではないか」といった質問が出されましたが、「責任を追及しようとすると、大事なことは聞き出せない。将来の世代からは、処罰を目的にした調査は全体を捉えるには不十分だったと評価されると思う」と述べて、責任の追及ではなく、事実の解明を優先する考えを強調しました。
質問に答えているのは、
事故調査・検証委員会の畑村洋太郎委員長。
つまり、この本の著者。
驚いた。
本に書いてあることと、まったくブレてない。
*
というわけで引用だらけだが、この本の3章のもくじを以下。
これで食指が動かなければ、たぶん読まなくていいとおもう。
第三章 失敗情報の伝わり方・伝え方
失敗情報は伝わりにくく、時間が経つと減衰する
失敗情報は隠れたがる
失敗情報は単純化したがる
失敗原因は変わりたがる
失敗は神話化しやすい
失敗情報はローカル化しやすい
客観的失敗情報は役に立たない
失敗は知識化しなければ伝わらない
六項目による記述
当事者が記述できないときはどうするか
決して批判をするな
上のニュース記事に直接つながるのは、
いちばん最後の「決して批判をするな」項ね。
要するに、
ただでさえ失敗情報は隠したがるもんなのだから、
責任追及なんていう余計なタスクをつけちゃったら、
本来の目的である「事実の解明」だっておぼつかなくなっちゃうでしょ、
という論旨。
*
まあ、なんだかコムズカしい。
東大の名誉教授だし。
でもじっさいに読んでみると、
初心者がとっつきやすいよう
すごく噛み砕いた説明がなされている。
*
ド文系なおれが面白いとおもったのは、
この人が工学部の教授だというところ。
言いかたが適当かどうかはたいへんビミョー&
ザッツ・ステレオタイプなんだが、
「理系の人が、理系的なアプローチで文系的なテーマをあつかっている。
しかも異常に人間くせえぞ」
というところ。
*
そういえば「失敗」という言葉、あるいは概念は、
たぶんに心理学的であり、哲学的であり、国語学的でもあり、歴史学的である。
もっといえば法学的でもあり、経営学的でもあり、社会学的でもある。
さらに広げれば医学的でもあり、当然、工学的でもある。
そんな大学っぽいカテゴライズは、
どうでもいいといえばどうでもいいんだけど、
いっぽうで、思考回路の文系ぽさ、理系ぽさというのは、
確かにあるとおもう。
*
文系ぽい「フワッ」をふまえつつ、
理系的なロジックで考えられりゃ、
もう鬼に金棒だとおもうのだ。
説得力も面白さも。
まあ、失敗というテーマだと
ある種の「フワッ」がなければ、そもそも成り立たないんだろうが。
*
本に見どころが多すぎて、とりとめのないエントリーになってしまった。
とりあえず、失敗学って
「成功につなげる経験・分析をしよう」ということなんだろうけど、
スタンスが
「じゃ、ポジティブシンキングをしようぜい!」ではなく、
「失敗ってネガティブなものじゃないんですよ~」なんである。
そこらへんの抑制が、
寺で和尚の説教を聴いてるようで、心地いい。
「想定外」って言葉を全否定しちゃってるあたりだって、痛快だ。