義弟は、ムスメっこのことが大すきだ。
それは、ムスメっこがにょうぼうのお腹にいるってわかったあと。
にょうぼうの実家で暮らすことになって。
ムスメっこが2歳ごろまで、(キクチ目線では)マスオさんしてたからで。
義弟目線では同じ屋根の下で、ふすまを隔てた隣の部屋で。
いっしょに過ごしておったからかもしれない。
*
披露宴のとちゅう。
おもむろにマイクを握り、義弟が叫ぶ。
「ななすけ、来い!」
義母とかにょうぼうとかおれが「ななちゃん」と呼ぶなか。
義弟は、ムスメっこを赤ん坊のときからずっと「ななすけ」と呼んでおって。
いまでも「ななすけ」と呼んでおる。
*
マスオさんをしてたころ。
にょうぼうもキクチも30代前半のしごとが忙しい時期で。
帰宅すると、ムスメっこが義弟の部屋にいるということがよくあった。
どうやら、義弟とムスメっこの間には、本人同士しかわからない親分子分みたいな関係ができあがっていたようだ。
たとえば。
そのころ義弟はネコのモモちゃんを寵愛してたんだが。
「ななすけ、モモの脚を押さえとけ!」
って、モモちゃんに腹筋の真似事をさせて。
それを見たムスメっこがウキャウキャ笑うみたいな。
(そのエピソードをムスメっこはよおく覚えておって)
(披露宴の新郎新婦へのメッセージに、うまく盛りに盛って書いたらあんがいウケたという)
*
ああ、必要な情報ではあるんだが。
その必要はキクチが記憶を呼び起こすって意味でだけ必要であって。
話の進行的にはまわりくどいだけだな、措く。
言いたかったことにワープす。
*
「ななすけ、来い!」言われて。
わけのわからないまま、ムスメっこは新郎新婦の席の横のマイクがあるとこに呼び出される。
義弟が語りはじめる。
「みなさん、すみません!」
「紹介します。こいつはななこといいます!」
「おれの自慢の姪っ子です!」
(筋肉集団「うおおお!!!」)
「ななこはこの春から○○大学の薬学部に進むことになりました!」
「薬剤師を目指してがんばるんだそうです!」
(筋肉集団「うおおお!!!」)
そしてそのまま「ななすけ」は、なし崩し的に義弟の再入場のための退場をエスコートする役目をおおせつかった。
(筋肉集団に、死ぬほどちやほやされながら)
うおお、動画さらしてえ!!!
コレ、なんつうか。
義弟がムスメっこをどんだけかわいがってくれてるかってのと。
主役としてちゃんと場を盛り上げようとしてるのと。
うがった見方かもしんないけど、ムスメっこへのこういう扱いを通してにょうぼうとキクチを立てようとしてくれてる心配りと。
そういうのが全部、含まれてるような気がして。
たまらなく胸を打たれたのね。
はじめて会ったのは、彼が大学4年の秋のシーズンが始まる直前。
たまたま合宿所からちょっと帰宅してきたときだったんだが。
学生最後のシーズン直前で気合が入りまくってて。
頭は丸坊主(剃ってる)だし、目つきもすげえ鋭くて。
「おねえのカレシ?」なんて話しかけられて。
内心、ビビりまくってたのがクソなつい。
*
。。。
*
結婚式で定番みたく流される、新郎新婦のフィルムみたいのあんじゃん?
昔の写真とか含めて、結婚直前のラブラブ画像とかで綴るみたいな。
義弟は、新妻にメロメロになってるいっぽう。
去年の春から監督をするようになった母校のアメフト部に心血を注いでて。
「古豪」って言われちゃってるチームを立て直そうとしてて。
去年の春、いきなりそれなりの結果を残して。
うお、すげえ!っておもったんだけど。
「準優勝はいちばん悔しい敗者である」
みたいなTシャツをつくって鼓舞しつづけてる。
*
その世界では長年カリスマと言われてた前任者の、
いいところは引き継ぎつつ、いまの時代に対応し、
彼が理想とするフットボールを実現しようとしておるんだが。
結婚式披露宴の感じをみていて。
サプライズで登場した教え子たちとの接し方をみて。
遠からぬ将来、それは必ずできる。
確信した。
奇しくもこの3年間。
ムスメっこと同い年の子たちの担任をしておって。
つい先日、卒業生として送り出したようで。
詳しくは知らんがたぶん、いい先生なんだとおもう。
じゅんじゅん、ホントおめでとう!!!