にょうぼうは、学生の頃から
1つのルイ・ヴィトンのバッグを使い倒してた。
学生の頃からにょうぼうのことを知ってはいたが
そうあんまりよく知ってもいなかったので
「学生のくせにブランドモノかよ」
「いまさらバブルかよ」
団塊ジュニアのど真ん中と
ロスジェネのど真ん中を兼ねそなえるおれは
そう、ふつうにおもった。
*
卒業してしばらくして
お付き合いするようになってからも
近未来のにょうぼうは、
そのヴィトンのバッグを使い倒していた。
家が裕福でもなく
がんがんお金を稼げる仕事をしてるわけじゃない
そんなおれは
「その価値観、どうなんだろう?」
おもったりもした。
もしこの先、いっしょになったとして
ブランド志向だったりしたら、困る。
金銭的にも、好み的にも。
*
いっぽうで。
「よっぽど気に入ってんだなあ」
「ずいぶん、大切にしてんなあ」
「まあ、安いもんじゃないんだろうし」
おもったりも、した。
*
結婚して、ちょっと経って、妊娠したころ。
ヴィトンのバッグの取っ手が、ぶっ壊れた。
にょうぼうは、ヴィトンのバッグを修理に出した。
諭吉がだいぶ、すっ飛んだ。
何事にも執着しない。っていうか
万事にずぼらなにょうぼうにしては
やけにアレだ。
*
お腹のなかにいるのは、どうやら女の子らしい。
14年前のいまごろ、判明した。
*
「私が大学に入学した日に、ね」
だいぶ、おなかが大きくなってきたころ
にょうぼうがだしぬけに、言う。
「このバッグ、ママがくれたの」
「『私が何十年も大切に使ってきたものだから
あんたも、大切に使ってね』って」
「私はね、楽しみにしてるの」
「いつかコシャチが大学に入学する日に」
「このバッグをあげるの」
「『ばあばもママも大切に使ってきたものだから
あんたも、大切に使ってね』って」
*
「コシャチ」ってのは
ななちゃんがななちゃんって
名付けられる前に呼ばれてた呼び名。
ワケワカメ。は、ともかくとしても。
ヴィトンのバッグ。
そういういきさつだったのね。
*
。。。
*
きょう。
にょうぼうとムスメっこが
2人で買いものに行った。
新宿で、ムスメっこの洋服を買うと言う。
うまいパンケーキも食って
21時ごろ、帰ってきた。
戦利品。
ムスメっこのファッションショーがはじまる。
ん? にょうぼう?
上下4着、サンダル2足。リュック。
ずいぶんな大盤振る舞いだな?
*
ファッションショー。
「おともだちがずいぶんおしゃれだから、ね」
にょうぼうが言うように。
さっき「いってきまーす」ってってた
ムスメっこの服装は
いまだに小学校の延長みたいだったのに
いま買ってきた服を
わくわくしながら試着するムスメっこの服装は
「シャレオツ的に階段を3段抜かしした」
みたいなてい、だった。
なんて表現していいんだかわかんないが
目の前にいるのはもう
「ななちゃん」じゃなく
「ななこさん」って感じだ。
*
にょうぼうが、かつて
だいぶ先の夢として話してたこと。
確実に近づいてきてるんだな。
いやおうなく、キョライす。
まだ5、6年も先の話だが。
44のじじいだてらには、たぶん
5、6年なんて、驚くほどあっという間なのだ。
来たるべきヴィトンのバッグ継承の日は。
たしかに喜ばしいことなのかもしれないが
「じぶんの代の終わり」として
みとめたくない気にも、なるんだろう。
*
妄想。
にょうぼうから継承されたヴィトンのバッグをもって
大学に通うムスメっこ。
どっかの馬の骨。
「学生のくせにブランドモノかよ」
「バブルかよ」
ものがたりは、つづく?
歴史は、くりかえされるの?
いーーやーーだーーーーーー。
*
。。。
*
きょうは「泥む」。
なんたって、音(おん)が美しい。
本文にヒントはない。
ビタ一文、たりとも。
なお「ドロン」では、ない。
金八。