⇒その1私が蚊に刺されてないか明日も見てて。大沢くん
⇒その2今度の日曜、ウチの親、組合の旅行でいないねん
⇒その3ひざまずいたほうが、かけやすいよ
ココで音声が聴ける。
*
起こし(↓)。
その4 蚊がいなくなるスプレー*
高「大沢くん」
大「あ、高山さん」
高「今度の林間合宿、何班?」
大「おれ、5班」
高「わたし、6班!」
大「そうなんや」
高「2班の男子が、夜中に女子の部屋来る。とか言うてるらしくてさ、むっちゃいややわ」
大「ふーん……」
高「どうしよっかなあ。2班の後藤くんが部屋に来たら」
大「後藤な。かっこいいよな」
高「大沢くん」
大「ん?」
高「大沢くんが教えてくれた、蚊がいなくなるスプレー、わたしいま、毎晩つかってるんよ」
大「うん……」
高「ワンプッシュ、しに来てよ、大沢くん。女子の部屋に」
大「えええっ!?」
高「あかん?」
大「そんなん、行かれへんよ」
高「大沢くんに、ワンプッシュしてほしいねん」
大「そんなん、もし先生にみつかったら」
高「いいの? 後藤くんに頼んでも?」
大「えっ!!!」
――金鳥の蚊がいなくなるスプレーだよ、青少年!
使用上の注意をよく読んで、正しくお使いください。
このシリーズ。ラジオで最初に
「その1」を聴いたとき、おもった。
「これは、淡いまま終わらなくちゃいけないよね」
「その4」を聴いてある意味、安心した。
「これはちゃんと、淡いまま終わるな」
*
林間合宿。
大沢くんはけっきょく、女子の部屋に
ワンプッシュ、しに行かなかった。
なんとなく、しに行けなかった。
そのまま林間合宿が終わり
長い長い夏休みが、終わる。
2学期の始業式。
ひさびさの教室。
「おはよう、大沢くん」
「おはよう、高山さん」
いままでとおんなじようなふう。
ああ、よかった。
大沢くんの胸はふたたび、高鳴る。
*
ふたたび、というか、
夏休みの間じゅう、いろんなものを抱えて
モンモンモンモンしてた。
メールをよこす勇気も、出なかった。
下書きボックスには
未送信が30件、たまっていた。
でも、ああ、よかった。
*
高山さんとなかよしグループの女子。
キャピキャピした会話が聞こえてくる。
キャピキャピだけどじゃっかん、ひそひそ。
「○○(高山さんの名前)ー、きいたわよー」
「何を?」
「何をじゃないわよー、後藤くんと2人で海に行ったって!」
「ふふふ」
「えっ……!?」
明日があるさ、青少年!
キャピキャピって昭和かよ、キ・ク・チ!