⇒その1私が蚊に刺されてないか明日も見てて。大沢くん
今回は4篇のうちの、2つめ。
音声はココで。
*
起こし(↓)。
その2 キンチョール*
大「高山さん」
高「なに? 大沢くん」
大「高山さんのとこって野菜つくってるんやんなあ」
高「きゅうり」
大「お父さんもお母さんも、夏、大変やろな、蚊、多くて」
高「まあ、うん……」
大「今度おれ、手伝いにいこかな。キンチョールもって」
高「え?」
大「おれ、めっちゃうまいねん。キンチョールで蚊を落とすの」
大「もし迷惑やったら、アレなんやけど……」
高「いいよ」
大「え!?」
高「別にいいよ」
大「え!?」
高「今度の日曜、ウチの親、組合の旅行でいないねん」
大「うん」
高「畑やなくて、私の部屋の蚊、落としてみてよ。大沢くん」
大「えっ!!!」
――蚊にはキンチョールだよ、青少年!
使用上の注意をよく読んで、正しくお使いください。
もうね。
「その1」でかんぜんに
この世界に入っちゃってるから
きゅうりすら、意味ありげ。
かつそれを最初に、
ぶっきらぼうに持ってくるの妙。
*
大沢くんはたぶん高山さんのことを
さほど気にしてなかったんだろう。
「その1」までは。
それが、こう。高山さんのこと。
急にすげえ気になりはじめちゃって。
(てんしょんが上がり過ぎて
寝室のクッションを高山さんに見立てて
初チューの猛特訓をしちゃったりなんかして)
あまつさえ「その1」では
押されっぱなしだったから。
おのれの存在感もちょっと見せなきゃな
って、おもう。
キンチョールもってナドト
堂々とエロ本を買うのが恥ずかしいから
大して欲しくもない
少年ジャンプと村上春樹の小説
の間に挟んでレジに持ってく的な、
じぶんに対してだか他人に対してだか
よくわかんないエクスキューズをともなって。
*
ところが、高山さんはさらに一歩先を行ってた。
今度の日曜、ウチの親、組合の旅行でいないねん
畑やなくて、私の部屋の蚊、落としてみてよ。大沢くん山びこ打線かよってくらい、畳みかけてくる。
よしんばチューなんか、畑でもでけるのに。
部屋に来いって、いう。
「私の部屋の蚊」って
高度だかそうじゃないんだかすらわかんない
メタファーをもって。
*
実際の音声を聴くと
この「その2」にかぎらず
大沢くんの「えっ!?」が、バツグン。
声のかすれぐあい、間合い。
その晩、大沢くんは家族が寝静まったあと。
忍び足で洗面所に向かい。
洗面所のタンスから
お母さんのブラジャーを持ちだし。
忍び足で部屋に戻り、クッションに巻いて。
「ブラジャーをごくナチュラルに外す千本ノック」
をカマすにちがいない。
*
男子中学生のイマジネーションは、凶器だ。
川原に落ちてる何でもない石ころを
世界最大のダイヤモンドに磨き上げちゃう
ぐらいの、跳躍力を持つ。
実質、まだ何も起きていないのに
大沢くんは、ダイヤを磨きはじめてる。
着々と。
もし、軽い火遊びをしてるつもりなら
高山さんは、じぶんのしてる火遊びが
アメリカかよぐらいの山の大火事に
燃え広がる可能性をはらんでる。
ということを、わかってるんだろうか?
当の大沢くんにすら
すでに鎮火不能な、燃えさかる火焔。
「火焔」って燃えさかるもんだから
「燃えさかる火焔」っておかしいな。
は、措いても。
*
いや、高山さんはそこらへんも
計算ずくなのかもしれない。
あるいは、盲目的な何らかによって
「山の大火事も辞さねえ」
って肚を据えちゃってんのかもしれない。
火焔バッチコイ! と。
うーむ。
最初は「男子中学生の凶暴」
を強調するつもりだったのに。
書いてるうち。
ますます「高山さん、肚据えてんじゃねえか」
って気がしてくる。
チャンネーって、こわい。
*
。。。
*
「その2」の最後の高山さんのセリフも
二人称「大沢くん」で終わってんだよね。
すごいぞ、青少年!
すごいぞ、シナリオライター!
もんだいの「その3」につづくっ。