キクチヒロシ ブログ

絶滅寸前の辺境クソブログ。妄想やあまのじゃく。じゃっかんのマラソン。

The Day

2006年3月26日23時48分。
プシュ、した一番搾りに口をつける寸前、ケータイが鳴った。
「ちょっと様子がおかしいので、来ていただけますか」

とりあえずジャンバーを羽織り、原チャリをとばした。


3月26日。
おれは忙しく走りまわってた。
実際あるいてたが、走りまわってた。

朝、方南町の家を出て、丸ノ内線に乗り、荻窪の病院へ。
カレに軽く声をかけて、丸ノ内線に乗り、銀座の画廊へ。



きょうはカレこと、父の個展の千秋楽。
浜松や茨城から、伯父伯母イトコが観に来てくれるという。
日曜だし最終日だから、お客さんもいっぱい来てくださるはずだ。

妹2人のバックアップを受けながら
母とおれのどっちかが、銀座か荻窪どっちかにいる、という行動を一週間つづけた。
そんなわけで母とはすれ違いで、ほぼ一週間、会ってなかった。

そんな慌ただしさも、きょうで、終わる。
あすからは病院に張りついてりゃ、いい。
じっくり、父を看病するぜ。



銀座の画廊は、ひとであふれてた。
浜松の伯母、イトコ。
茨城の伯父伯母、イトコ。
父の同僚、後輩。
父がかわいがっていた、表具屋さん。
おおぜいの、通りすがりの、お客さん。

17時、個展は大団円を迎えた。
親戚はひと足先に、病院へ。
母とおれは、会場の片づけをして、病院へ向かう。

一週間ぶりに母と会い、話した。
「あすからは、ゆっくり看病、できるね」
「とりあえず、個展がぶじ終わってホッとしたよ」
「通、みたいな見知らぬおじさんがフラフラッと来たときは、ありゃビビったよ、はっはっは」



病院に着いた。
みんなに囲まれて、父は上機嫌だ。
図録を片手に、茨城の伯父にいろいろ話してる。
茨城の伯父も、興味津々で、作品について質問を重ねる。
父は調子に乗って、話しつづける。



1歳になったムスメを連れて、にょうぼうも病院に来た。
父が慌ててメガネをかける。
ムスメはメガネをかけていないじいじを、じいじと認識できず、こわがって泣くから。
父は孫に泣かれたくないから、超高速って感じでメガネを取り出して、かける。

ムスメをひととおりめでて、ふたたび図録を片手に、茨城の伯父に話のつづきを、する。

ひとしきり話すと、
「きょうの講義はここまで」
と、図録を閉じた。

「つづきはまた、酒でも飲みながら」



面会終了時間の20時になった。
「じゃあ、またね」
「ぶじ、個展が終わって、やったね!」
みんな、病室を出てく。
エレベーターへ向かった。

おれはなんだか、父にもうひと言かけたくなり。
忘れ物をしちゃったていで、病室へ戻った。
みんな来てくれてうれしい反面、ちょっと疲れてた父に向かって
「あしたは朝、取材があるけど、終わったら来るよ。個展おめでとう! おつかれさま」

「おう。いろいろありがとう。じゃ、またあした」

カーテンを閉め、エレベーターに乗らず、階段を駆け足で下りた。



親戚と、荻窪の駅ビルで飯を食う。
「いやあ、お客さんの数、すごかったね」

確かに。
無名の書道家の個展にしては、異例の動員だった。

「きょうはマンツーマンでたくさん、講義受けちゃったよ。おもしろかった」
茨城の伯父が言う。



父は東京の瀬田生まれ。
実家のすぐ前、材木店の離れに、子ども向けの教室があった。
父は週に一回、そこで書道を教えていた。

父の書道教室とは違う日。
茨城の伯父は学生時代、材木店の離れの教室で
週に一回、学習塾講師のアルバイトをしていた。

どういう経緯か知らないが、
おんなじ教室で違う曜日に教えてた自由業と学生が知り合い、意気投合し
これまたどういう経緯か知らないが、
学生の妹と自由業が結婚することになり、やがておれが生まれた。

人に、歴史、あり。



そんな話もしつつ、荻窪駅ビルで楽しく飯を食い。
めいめい、帰宅の途についた。



家に帰り、風呂を沸かし、入り、出て。
冷蔵庫からビールを取り出した。
寝る前に一杯飲んで、あすからまたがんばろうとおもった。

23時48分。

プシュ、した一番搾りに口をつける寸前、ケータイが鳴った。
「ちょっと様子がおかしいので、来ていただけますか」

狛江の実家にデンワを入れ、母にこういうことがあったんだけどさあって話し。
とりあえずジャンバーだけ羽織って、原チャリをとばした。

病院からコウ、デンワがあるのははじめてのこと。
青梅街道を西に向かいながら、
「まあ、こういうこと、これから何回かあるんだろうなあ」
と、のんきにおもいながら。

ただ、右手に握った原チャリのアクセルはフルスロットルだった。



0時15分ごろ。
病院に着き、駐輪場に原チャリを停め、深夜受付を通り、階上の病室へ向かう。
ナースセンターに寄る。
「いやあ、いろいろお世話かけて、いつもありがとうございます。キクチだお」

フカキョン的なエンジェルナースが、無言でおれを病室へ先導する。

病室に入る。

父の顔には、布っきれがかかってた。

そっか。。。

布っきれを取ると、もう動かない父は満面の笑みをたたえていた。
触ってみると、まだ、ふつうにあたたかい。
「0時07分、でした」
と、エンジェルナースは、言う。



ありがとうございます。
エンジェルナースに頭を下げ、病室を出て、階段を下り、病院の外に出た。

セブンスターに火をつけ、ケータイを取り出し、実家に電話をした。
「間に合わなかった」
「とりあえず落ちついて。クルマで事故らないように」

おれは、がむしゃらにセブンスターを吸った。

「てめえの個展、千秋楽を見届けて、明けて7分後たあ、カッコよすぎるぜ、父ちゃん」
病室に戻り、話しかけた。応答は、ない。

応答はないが、目の前の父は満面の笑みをたたえてる。



半年前、仕事をしてると。
新宿のカフェに呼び出され、長い間、話した。
上咽頭にガンがみつかったという。

お互いの意見を、ガチでぶつけ合った。

最後は売り言葉に買い言葉のケンカ腰みたくなった。

「生きるということだけ、考えろ」
おれは、ほざいた。
「これからのお父さんの生きざま、ちゃんとみててくれ」
父は、啖呵をきった。



見事な生きざま、見してもらった。

それからちょうど、9年、経った。。。

それまでけして夜には切らなかったツメを
それからはかまわず切るようになった。
迷信なんか、くそくらえ、だ。
いや、下品だったな。
ウンコ、召し上がりませ、だ。



おまけ。

わが家の階段の踊り場(↓)。
IMG_2298

元、父親の書斎。現、おれらの寝室の片隅なう。
IMG_2299

ズーム、アーップ。おのれが死ぬとも知らず、死んだ後の予定、入れとる。
IMG_2300

カーテンレールが最適な置場なんだそうな。
まだ、カーテンレールから、外せないんだそうな。
IMG_2301


きょうのポエム、ここまで。