頭文字D
あらかじめ言っとくと。
おれは『頭文字D』ってマンガを読んだこと、ねえ。
どういうハナシかもまったく、知らねえ。
ただ、頭文字と書いてイニシャルと読む。
なんかその隠喩と書いてわざわざメタファーってルビを振る。
っていう、田中康夫のエッセーみたいな
果たしてカッコいいんだかよくないんだか
よくわかんないやりくち、
どっかで使いてえな、とおもってた。
*
もう8月も下旬。
そろそろ走るキョリを伸ばさなくちゃ。
とりあえず夏のあいだ避けつづけた
20kmぐらいのキョリから
ふつうに走れるようになっとかなきゃ。
*
というわけで、今朝
多摩川を走ってきた。
狛江から登戸の多摩水道橋を渡り、
川崎側を下り、
丸子橋を渡って狛江に戻る。
Big Issueと名づけてる22.1kmのコース。
*
夕方に二子玉川で花火大会があるってんで
はやくもコースの規制がはじまってるなか
ポクポク、走る。
いや、わりといっしょけんめい、走る。
*
いっしょけんめい、走ってみた。
来週の日曜、北海道マラソンなんだっていう。
ナツいアツは大すきだが
ナツいアツにジョグするのはニガテだ。
そんなとき、
フルマラソンを走るなんて、とても信じられない。
でも、なんだか、うらまやしい。
フルは走れない。
ので、22.1kmでおれの北海道マラソン。
道マラ。
フルマラソンでいうと
20km地点からはじまる
おれの道マラ。
*
いやいやいやいや。
そんなこともう、どうでもいいわけですよ。
ホントは表題のあたまに
【超絶速報】
ってつけたいくらいだったわけですよ。
ここまで読んだひとで
「北海道マラソン」で検索したひといたら
ほんっと、すんません。
「頭文字D」で検索したひともすんません。
これ読んでも
まったく、なんの知識もえられません。
道マラも、頭文字Dも。
*
おれの道マラ。
狛江がスタートゴールだからコマラでもあり
多摩川を走ってるからタマラでも、ある。
*
そうなんです。
多摩川なんです。
川崎側をポクポク走るんです。
くどいようですケド、多摩川を、です。
多摩川の川崎側には、あのひとがいるんです。
そうです。あのひとです。
頭文字Dです。
え? ふつうの河川敷の風景じゃない?
いえ、よく目を凝らしてみてください。
キテマス。
キテマス!
キマクリやがってます!
ドラクエ5で。
ルドマンの屋敷の塔に現れる中ボス
ブオーン、みたいな接近感。
宿願を果たしました。
とうとう激写してやりました!
そうです。
ダーハダカおじさん、そのひとです。
あいかわらず安定の
キロ8分走行な、ダーハダカおじさん。
コーフンのあまり、鼻血出しながら
連写しまくりなわけです。
*
ダーハダカおじさんとは
すれ違うことのほうが多いわけで。
さすがに真正面から
スマホを向けるわけにはいかねえ。
でもきょうは、おれが追い抜く側。
顔をぼかす手間もいらない。
千載一遇のシャッターチャンス。
遠くからでも、近くからでも、撮れる。
そう、遠くからでも、近くからでも。
ちっちゃいダーハダカおじさん!
でっかいダーハダカおじさん!
こういう、あからさまなパクリンチョも
意のままな、わけです。
*
100mぐらい先を走るダーハダカおじさんを
発見するやいなや
アズ・スーン・アズ・発見するやいなや
おれの道マラは終わりました。
事実上。
*
最初の1枚。
遠めの1枚。
ウヒョーってスマホのカメラを向けたものの
まだ、ダーハダカおじさんかどうか、半信半疑だった。
*
確かに。いつおどおり。
異常なスローペース。
異常な肌の黒さ。
異常に発達したふくらはぎ。
そして、あまりにも個性的なフォーム。
なんだケド、パンツがちょと違う。
ラガーマンみたいな
油断すると下ケツがはみ出しかねない
おれが見慣れたアレじゃ、ない。
影武者?
人身御供?
ただの人違い?
*
そんななかで
「でっかいダーハダカおじさん!
ちっちゃいダーハダカおじさん!」
がやりたくて
とりあえず連写しといた。
*
「でっかいダーハダカおじさん!」
をできるかぎりでっかく撮ってやろうと
2メーターぐらいの至近から、パシャ。
「カシャ!」
って、わりとデカい音が鳴る。
その音に「なんだなんだ?」って
被写体がふり返る。
ギリシア彫刻みたいな、チョー二枚目。
ギョロッとした両の眼。
やっぱり、ダーハダカおじさん、
アナタ、でしたよね!
おれの目に狂いはなかったん、ですよね!