息子ちゃんはどんな色?
あだち充『MIX』の2巻。
コレ、ひょっとしたら名作になるかもしれない。
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『MIX』は、あだち充が近年うけがちな批判を
逆手にとった作品である。
なかでも、
「必ず身近な誰かが死ぬ」をはじめとした自己模倣については
(間違えた意味での)確信犯的に、ネタにしてる節さえある。
というのは、1巻にかんするエントリーでも触れたとおり。
→自己模倣オールスター(2012/10/12)
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なんたって、
“舞台は明青学園野球部”
という出オチの完成形みたいなところが、
入口なわけで。
ダチョウなら、つかみはOK!って言っちゃう、ぐらい。
エドはるみなら、グーググーグーグー!って言っちゃう、ぐらい。
なんで、エドはるみ、いま、エドはるみ、
なのかは、知らん。
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自己模倣的に、あとの生命線は、
『タッチ』のキャラなりエッセンスを
どういうタイミングでどう見せるか、の加減だけ。
全盛期の北別府が、アウトローにボール半分ぐらいの
出し入れで勝負していたように。
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ぜんぜん関係ないけど、
1回を3者連続三振で立ち上がったピッチャーって、
のちにかならずよからぬことが起きるよね。
これ、おれのなかでは昔からあるあるなんだけど、
ほんとうに関係ないから、
まあいいや。
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『MIX』に戻る。
出し入れ的には2巻でも
『タッチ』のキャラが出てくる。
バーンと。
敵のエースとして。
「ひょっとして、あなたのカーチャンはスズコさんですか?」
なアノ人。
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さて。本題。
2巻を読んでて、コレ、ひょっとしたら名作になるかもしれないね。
とおもった。
という、冒頭のくり返し。
いまポインツを握ってるのは、権力者の息子ちゃん。
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権力者の息子ちゃん=野球部のエース
は、主人公兄弟のいわば敵(かたき)役。
○ピッチャーとしての実力は主人公のほうが上。
○でも、親の力でエースの座を手に入れた。
○しかも、練習はいつも早々に切り上げちゃう。
○それを悪びれもせず、アタリマエとおもってるぽい。
という、申し分のない真っ黒な嫌われキャラ。
序盤は、主人公がそこらへんをどうアップセットしてくか
というストーリーが展開されるんだろうな。
1巻の時点でだいたい
誰でもそう予想できる感じ。
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ところがこの息子ちゃん、
2巻にして早くも、
「ひょっとしたら真っ黒じゃないのかも」
みたいな匂いを漂わせた。
敵役の風味も保持しつつ、
わりと常識的に押したり引いたりしてる。
ように見えるのだ。
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この匂いがどストレートなのか、
(「最初から実力で劣ることはわかってて、実はずっと苦しんでた」とかの悔悟告白シーンが出てくる、とか)
(息子ちゃんが権力オヤジを説得→『H2』みたいな展開、とか)
裏の裏を返してカンペキな真っ黒なのか、
(キャッチャーのサインに従ってたくだりを、あだち充がいつの間にかなかったこととして話を進める、とか)
(もっと白黒ハッキリした善悪のたたかいが繰り広げられる、とか)
あるいは、いい感じでそれらの中間なのか、
どの方向にも転べそう。
もちろん、上記カッコ内は「これはさすがにつまらなすぎて、ないよね」の例。
息子ちゃんがどんな色かで、この話の色もだいたい決まってくるとおもう。
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まあ、あだち充的に
「誰か死ぬ」以外、そうきょくたんな展開はたぶん、ない。
が、きょくたんじゃないなかでどうやって今後
「あだち充的に」おれをビックリさせてくれるのか
ちょっとワクワクしてきた。
そんな萌芽を感じさせる、2巻。
「オラ、なんだかワクワクしてきたぞ」という
作者違いはさておいた、2巻。
なんである。