オレのボール当てるんだぜ
いまのところ、今年読んだ野球関連の本でダントツのナンバー1。
『巨人‐阪神論』というか、
野球論、プロ野球選手論として、歴史に残るものかもしれない。
5章だての対談集なのだが、
昨今の掛布周辺の騒がしさはさておき、2章までは超秀逸(ただし後半はクソ)。
「後半はクソ」の根拠は、もくじで一目瞭然。
1 巨人ー阪神の情景
2 江川対掛布の名勝負伝説
3 引退の真実
4 巨人ー阪神の伝統
5 監督論
4章の見出しはたとえば
「王貞治論」
「長嶋茂雄論」
「もしFAがあったら阪急に入団していた?」
といったもので、王・長嶋論まではいいんだけど、
3つ目にあるとおり、ただの妄想がはじまっちゃってるんである。
(補:江川というと「空白の1日」なんだが、高3のとき阪急ドラ1だった)
5章にいたっては、もう掛布と江川によるペイドパブみたいなもんだ。
みたいな。
クソは、
飲み屋のオヤジと変わらない「評論家」としての目線と、
もはや現実的でない「監督」になったときの理想論
を語り出しちゃった部分とリンクする。
とりわけ後者は
「婚期をしっかり逃してるくせに
理想(プライド)だけはますます高まるアラフォーの独身女が、
ダンナにしたいオトコについて語るぜ」
ノリ。
知るか、んなもん。
。。。
いや、この本は基本的にすばらしかったんで、
くさしてもしようがない。
なにがすばらしいかというと、
上記、「クソ」を裏返した部分。
つまり「現役選手」のあるべき精神性、野球観。
すなわち、彼らがもっとも真摯に野球に取り組んでいた時分のお話しなんである。
基本、昭和末期の話なので、
「ON以後、ドーム以前」の雰囲気を体感していない世代には
ちんぷんかんぷんかも。
引用はあえて控えるが、
この本のすばらしさのロジックを
いい換えると次のようなこと。
○ナイターの解説者としての掛布はウザい。
↓
○どうしてかというと、打撃理論・持論を滔々としゃべり続けるから。
↓
○ただ、それを活字化し、文庫という体裁におさめてみる。
↓
○するとあらフシギ! ミスタータイガースの野球論・野球観として、リッパな読みものに大変身してしまうじゃないの!
↓
○対談相手の江川も、掛布の勢いにうまく乗り、江川なりの野球論・野球観を気分よく出しちゃってるじゃないの!?
エピソードを1つだけ。
江川の掛布への初球は必ず甘いカーブ。
掛布は見逃す。
「それは巨人のエースと阪神の4番の対決がはじまりますよ~」
と、5万の観衆に告げる意味合いも含む。
というあらすじ。
(あらすじはオレがテキトーにつけたもの)
そしてそれは、2人が話し合って決めたことではない。
阿吽(あ・うん)なんである。
それどころか、ライバルとして現役時代はロクに口を利いたこともないんである。
敵チームなのになかよくなったら、真剣勝負できなくなるかもしれないし、
性格が知れたら負けてしまうかもしれないからだ。
ゆえに、
相手の4番から空振り三振を奪っても
「当然」といった体でいるのがエースなんであり、
相手のエースからホームランを打っても、
ニコリともせずダイヤモンドを一周するのが4番なんである。
く~~~、昭和男のロマン。
あ、表題はオールスターで江川が掛布に放ったひとこと。
最近、タイトルがぞんざいだ。
掛布 江川が一番いい時のオールスターだったよな。覚えていないと思うけど、マッサージしてもらう部屋で一緒になった時に「カケ、プロのバッターって凄いな。オレのボール当てるんだぜ」と言ったんだよ。なんだこいつと思った。
掛布じゃなくても、「なんだこいつ」だ。
10年以上前だったか、
「うるぐす」かなにかで、
“大リーグのスカウトに、当時の日本のエース級のピッチャーのVTRを見せて評価を聞く”
という企画があった。
VTRを見たあと、そのスカウトが
「今すぐにでも連れて帰りたいのが1人だけいる」
と言った。
それはスタッフがいたずらでまぜておいた
解説者・江川卓の現役時代の映像だった、
という有名な話がある。
細部は記憶があいまいだが。。。