2年前に出た高校野球の単行本。
タイトルからして大好物なのに、
なんで今まで見逃してたんだろう。
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「ノンフィクションは、人選でほぼ決まる」
と再認識させられる。
そりゃあ、本田宗一郎やらイチローやら野村といった
ビッグネームをとりあげれば、
いいものができるに決まってる。
いいものっていうか、
「そこそこ売れると考えられるもの」
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高校野球の場合、そうもいかない。
池田高校・蔦、箕島高校・尾藤みたいな名物監督や
戦死した海草中の嶋清一投手
みたいな鉄板ネタはあるが、
これらはすでに語りつくされているといっていい。
だからこそ、誰を取り上げるかが重要となる。
もちろん、著者の力量は欠かせないファクター。
特にこの本は、着眼点と文章力が並外れているが
ここではそれは措く。
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この本の人選はこうだ。
カッコ内はおれ追記。
岡村憲二(92夏、松井5敬遠のときの明徳のエース。敬遠したのは彼ではない)藤岡、山口、神谷あたりが秀逸なところ。
秋村謙宏(83夏、宇部商。水野など、いわゆる黄金世代の宇部商のエース。元広島、いまプロ野球の審判)
藤岡雅樹(86夏、松山商。KKの翌年に甲子園準優勝、いまカメラマン)
小竹重行(73夏、京都商。江川と同期)
山口重幸(84春、岩倉。KKを破りセンバツ優勝。元ヤクルトなど)
神谷善治(90夏、沖縄水産。沖水が2年連続準優勝したころの、1年目のエース)
有澤賢持(68夏、北日本学院)
松本稔(78春、前橋。史上初の完全試合)
藤原安弘(85夏、東海大山形。KKのPLにフルボッコにされた)
かゆいところに手が届きすぎている。
たとえば、
藤岡じゃなくて、決勝の相手、天理の本橋だったり、
山口じゃなくて、同年の夏にPLを破った取手二の石田だったり、
神谷じゃなくて、翌年のエース4番だった大野倫だったり
は、ありがちなパターンで。
それはそれで胸が躍るんだけど、
3年に1度ぐらいはどこかで見かけるネタで
食傷気味でもある。
そこに、この人選。
「あえてそっち行くか!」と
ニンマリしながらつっこまずにはいられない。
かつ、上の「ありがち」な人選に
勝るとも劣らない濃厚な人生ストーリーが
ちゃ~んと用意されているんだもんね。
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そういう意味では
秋村、松本、藤原っていうのもある種、定番だけど、
筆者がしっかり語りきっているので、食傷せずに読める。
あと、おれと世代的にはずれるが、
小竹、有澤といった人たちが
ちゃんと脇を固めてくれている感じ。
あまりよく知らなかったので
時代背景やら含めて、勉強になった。
明徳義塾の松井敬遠に関しては、
自分の中でいまだに消化しきれてない部分があるので、よくわからん。
ただ、岡村(と彼を取り巻く人物)ストーリーとしては秀逸。
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ズキンときたフレーズ。
「星稜戦で監督は、ぼくじゃなくて、何を言われても平然としている河野を投げさせた。今になってみれば、監督はそこまで見てたのかという感じです」(岡村)
「野手転向、戦力外、バッティングピッチャー、スコアラー。いろいろな経験をして学んできたことも多いけど、高校時代の自分に会っても『そのままプロをめざしてがんばれ』と言うでしょう」(山口)
「17歳の春に甲子園で“完全試合第1号”というラベルを手にしたからこそ、その後、肩の力を抜いて生きてこられた」(松本)
※あえて原典を見ていないので、細部は違うかも。
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あと蛇足だが、
小竹の章で筆者が述べている「1対0論」に興味が尽きない。
そのテーマで1冊書かないだろうか。